「鞭」
真後ろで誰かがそう言った。女の子の声だ。「鞭」って呟くなんて、世の中、いろんな人がいるもんだ。聞き覚えのある声のような気がするけど、あたしは気にせず廊下を歩き続けた。
「鞭ー」
なんか、やばい人が後ろにいるよ。絶対関わりたくない。
早足でその場を去ろうとした……とき、突然上着を後ろに引っ張られた。あたしは不可抗力で立ち止まった。
誰だ? 振り返ると、波打った長い金髪の少女が見えた。今いる魔法学校の同級生――友達のアウザだ。何か企んでいそうな笑いを浮かべてる。
「なに?」
あたしを立ち止まらせたからには、何か用事があるんだろう。一応訊いてやった。
アウザが意味ありげな笑みを顔にはりつけたまま、言葉を発した。
「あたしねー。面白いこと思いついちゃった」
きっとくだらないことだ。そんな気がする。まあ、一応聞いてやるとするか。
「エスって魔女でしょ?」
あんたも魔女でしょ、っていう突っ込みが喉まで出てきた。結局言わなかったけど。
「でね、気づいちゃったの。エスと魔女を合わせると――」
……まさか。
「switch(スイッチ)! 鞭よ鞭! 危ないわねー、エス」
おかしそうに笑うアウザ。
あたしは無言でアウザに右の掌を向けた。
「消えな、おやじギャグ」
華麗に、あたしの魔法が炸裂した。
ったく。あたしは鞭いらずなんだよ!