CANADOH

掌編

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あの手紙

 清閑な高校の中、白髪の老爺は教室の引き戸を開けた。擦れる音を立てながら開く扉の向こうには、整然と並んだ机があった。

 校内に、彼以外の人影は見当たらなかった。日曜日だからだろう。運動部の活動の盛んな学校ではないようで、部活動に励む声も聞こえない。否、時間的なものもあるのかもしれない。ガラス窓の向こうで、空が橙色に染まっている。

 教室の中に一歩踏み込む。丁度そこは、教室の後ろに相当するところだった。黒板のほうを向くと教室が一望できた。

 「おお……」

 老爺は感激の声を洩らした。

 「ここだ、ここだ。なんと懐かしい」

 そう言うと、窓際の最後尾にある机に小走りに駆け寄った。

 机の表面には、漫画や文字などが刻まれていた。どれも見覚えがあるものだ。

 「間違いない。この机だ」

 急く気持ちを抑えながら、老爺は椅子を引き、机の下側についている物入れに左手を突っ込んだ。刹那、指先に何か薄っぺらいものが当たった。それが何なのかは、すぐにわかった。

 机から手を抜く。その手は一封の封筒をつまんでいた。白地に桃色の模様が入った封筒だ。ハート型のシールで封がされている。

 「こ、これだ」

 声を震わせ、封筒をまじまじと見つめた。そして一八〇度方向転換すると、教室の外に駆け出た。そのまま階段を下り、運動場に走り出る。運動場の中央には、タイヤのない普通自動車のようなものがたたずんでいた。

 老爺はそれに乗り込むや否や、ズボンのポケットから鍵を取り出して鍵穴に指した。メーター代わりにあるモニターが一瞬白くなり、英文が次々と表示され始めた。

 彼は再び、手に持った白い封筒に目をやった。安堵のため息をつき、微苦笑する。

 「ああ、よかった。これで汚名が拭える。大の男がこんなラブレターを作ったという事実は、もう誰にもばれることはないだろう。……しかし鍵山め、今ごろ遊びに来たと思えば、こんなラブレターを持って来おって。あいつが盗んでおったとはな。どうりで見つからんかったわけだ」

 呟き、モニターを見る。黒い画面に、

 「1998/02/10 → 2060/08/13」

 という文字列が瞬いた。

 運動場の空間が歪む。圧が変わって風が巻き起こる。

 数秒後、老人を乗せたタイムマシンは運動場から姿を消した。

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